公益社団法人 日本医学放射線学会

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ガイドライン

2005年02月21日

小児CT ガイドライン―被ばく低減のために― (2005年2月21日)

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社団法人日本医学放射線学会
社団法人日本放射線技術学会
日本小児放射線学会
要約
・小児は放射線に対する感受性が成人の数倍高い。
・小児は体格が小さいため、成人と同様の撮影条件では、臓器あたりの被ばく量は2倍から5倍になる。
・ CT検査に当たっては、適応を厳密に検討し、小児のための撮影プロトコールを適用する。また、CT装置の品質管理に努める。
・医師は検査の必要性を患児、家族に十分説明する。

1. はじめに
CT は非常に有益な検査方法ですが、一回の検査における被ばく線量が多いことも事実です。2000年、原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR)は、医療水準が良好な27カ国において全X線検査の6%を占めるに過ぎないCT検査が、被ばく線量としては41%を占めていると報告し ました(文献1)。日本国内には、現在、全世界の普及台数の1/3以上にあたる、約1万3千台のCT装置が稼動しています。
CT撮影は、医師が臨 床上必要と判断した場合、撮影上の制限はありません。CTは詳細な画像情報を提供してくれるものの、通常の単純X線撮影の数十倍の放射線量を必要としま す。このため、撮影部位、方法などへの個別配慮が特に要求されますが、CT検査による利益に比べれば、被ばくによる個人的なリスクは少ないものです。ただ し、小児は成人よりも放射線に対する感受性が数倍高く、さらに特別の注意を払う必要があります(文献2)。
有益な放射線診療が損なわれることなく患者さんや家族が安心して検査を受けられるように、被ばく低減を目的とし、小児放射線診療に係わる医療関係者を対象として、本ガイドラインを作成しました。

2.小児のCT検査の特殊性
小 児は、成人よりも体格が小さく、同じ撮影条件を適応すると、臓器あたりの被ばく量は、2倍から5倍になります(文献3)。また、頭部や腹腔内の脂肪が少な く、臓器も小さいため、一般的に画像コントラストは低下します。画質を追及しすぎて、撮影線量が増えないように注意してください。また、撮影目的でない臓 器の被ばく線量にも配慮する必要があります。特に女児の場合は、胸部CTにおいて乳腺が被ばくしていることを認識してください。

3.検査の適応
検査を依頼する医師は、CT検査の適応を厳密に検討してください。
検査適応の決定には、家族からの充分な情報収集が不可欠です。

4.被ばく線量低減を考慮したプロトコールの選択
診療放射線技師の方は、品質管理に努めた上で、実際の撮影時には、以下の点も配慮してください(文献4)。
技師不在の場合は、担当医が行う必要があります。
(1) 造影検査だけで目的が達せられる場合、単純CT検査は控える。
(2) 撮影範囲は疾病の診断に必要な最小限とする。
(3) 必要以上に細かいスライス厚やピッチファクタで撮像しない。
(4) 体格(体重)と撮影部位に応じた撮像条件を設定する。
(5) 付加フィルタ(被ばく低減用フィルタ)を利用する。
(6) 適切な画像再構成関数を選択する。
(7) 自動照射制御機構(CT-AEC)が装備されている装置は、これを活用する。
参考となる撮影条件を表1に記載しました。

5.検査の被ばく量の把握
CT 検査の患者被ばく線量を、個別に実測することはできません。しかし、安全性を担保するためには、日常使用している標準的な撮影条件における線量を把握して おく必要があります。CT検査の線量測定には、(1)専用の測定器による測定、(2)荷重されたCTDI(Weighted Computed Tomography Dose Index:CTDIw)、(3)被ばく線量計算ソフトのいずれかを利用してください。

6.患児、家族への説明
検査前や、希望がある場合は検査後にも、CT検査の被ばくによる身体への影響を丁寧に説明してください。専門用語と数値を羅列するのではなく、質問者の不安が何処にあるのかを把握し、以下の要点を押さえて、安心が得られるような説明を心掛けてください。
(1)検査の必要性、検査で得られる(得られた)情報の有益性。
(2)撮影目的部位のみに放射線が照射されるため、影響を考慮する場合は、基本的に撮影部位のみを対象にすればよい(頭部CTでは肺や胃に影響はない)。
(3)小児では特に、可能な限り被ばくを低減するように配慮している。
(4)CT検査が原因でがんが発症した実例はない。
(5)撮影室に入っている時間を長く感じるかもしれないが、実際に放射線を出している時間は非常に短い(入室中ずっと放射線を浴びているわけではない)。

表1.参考となる撮影条件(文献5を基にCT-EXPO ver1.3を用いて算出)


スキャン条件     
kV  mA  mAs ビ-ム 幅 ピッチファクタ 実効線量男[mSv]  実効線量女[mSv]  
胸部 SSCT  120  70  70 5  1.5  1.5  1.8  
小児 MDCT  120  50  50 10  1.5  2.1  2.5  
胸部 SSCT  120  40  40 5  1.5  1.3  1.4  
乳児 MDCT  120  30  30 10  0.8(0.75)  3.4  3.9  
腹部 SSCT  120  100  100 5  1.5  4.6  5.7  
小児 MDCT  120  80  80 10  1.5  7  8.7  
腹部 SSCT  120  60  60 5  1.5  2.9  4  
乳児 MDCT  120  50  50 10  0.8(0.75)  8.8  11.9  

SSCT: Hispeed Advantage, GE。MDCT: Light Speed Qx/I, GE 100kV 撮影の際は0.63 倍する。 小児体重:27-36 Kg、乳児体重:4-5.9Kg

付記:患者さんからの質問と回答例
(質問例)
5 歳になる娘の母親です。子供が転倒し後頭部を強く打ったため、病院で頭部のレントゲンとCT検査を受けました。最近になって、放射線の影響が非常に心配に なりました。レントゲンの結果をみて医師は問題ないと言ったのに、CT検査までお願いした自分を、悔やんでいます。将来がんになりやすいなど、影響はある のでしょうか。

(回答例)
御質問にお答えさせていただきます。
お子様のために良かれと思ってお願いしたCTが原因で、将来なにか悪影響があったらとご心配の様子がよく伝わってまいりました。自分の症状を上手く説明できない小さなお子さんの場合は、打撲の後、知らないうちに頭の中で出血していることもあります。
ご 心配なさったことは無理もありません。また、結果に異常がないとわかった時は、大層安心されたのではないでしょうか。もし、CTを撮らなければ、その後、 なんとなく不安が続いたと思います。放射線診療により、患者さんや御家族の方が安心することも大切なことと考えています。
さて、ご心配の放射線と 発がんについてですが、確かに広島・長崎の原爆被ばく者のように、大量の放射線を一度に浴びると、がんの増加が認められます。しかし、頭部CTでお子様に 当たる放射線量は非常にわずかです。CTの被ばくが原因でがんになったと言う報告はありません。また、放射線検査を受けた影響があとあとまで蓄積されるこ ともありません。
 放射線検査は診察ではわからない多くの情報を得ることができます。必要な放射線検査は、今後もきちんとお受けになることをお勧めします。

引用文献
1)「放射線の線源と影響」原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000
年報告書 独立行政法人 放射線医学総合研究所 監訳(実業広報社)
2)ICRP Publication.60 ICRP90年勧告(社団法人日本アイソトープ協会)
3)ICRP Publication.87 CTにおける患者線量の管理(社団法人日本アイソトープ協会)
4)臨床放射線技術実験ハンドブック 日本放射線技術学会編(通商産業研究社)
5)Lane F. Donnelly, Donald P. Frush :Pediatric multidetector body CT. Radiologic Clinic of North America. 41: 637-665,2003 

参考資料
1)Brenner DJ, Elliston C, Hall E, et al: Estimated risks of radiation induced fatal cancer from pediatric CT. AJR 176: 289-296, 2001

 医療における放射線の影響についての問い合わせ先
1)日本医学放射線学会(http://www.radiology.or.jp/
2)日本放射線技術学会(http://www.jsrt.or.jp/
3)医療放射線防護連絡協議会(FAX 03-5978-6434)

ワーキンググループ構成員(五十音順)
日本医学放射線学会; 石口恒男、大野和子、野坂俊介、
               中村仁信(委員長)、西澤かな枝、
               藤岡睦久
日本放射線技術学会; 粟井一夫、鈴木昇一、村松禎久