公益社団法人 日本医学放射線学会

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2022年12月22日

「ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言」の改訂について

日本医学放射線学会 造影剤安全性委員会

本学会では、2017年06月29日に「ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言」を発表し、2018年11月15日にこれを改訂しています。

急性(即時性)副作用発生の危険性が高いと考えられる患者さんにやむを得ず造影剤を使用する際には、危険性軽減のためにステロイド前投薬が長く推奨されてきました。しかし、欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR)の最新のガイドライン(ver. 10.0[2018])では、有効性に関するエビデンスが乏しいという理由で削除されています。米国放射線医会(ACR)の最新のガイドライン(ver. 2021)では、エビデンスが不足しているとしながらも、多くの専門家がその有効性を信じているとの理由から、前投与を考慮してもよいとしており、これらガイドラインの内容が異なる状況となっています。

現在でも多くの論議がありますが、当委員会としては、最近新たに得られた知見などを考慮し、提言を以下のように改訂します。

 

ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性(即時性)副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言(2022 年12 月改訂第3版)

日本医学放射線学会 造影剤安全性委員会

ヨード/ガドリニウム造影剤の投与により、急性(即時性)副作用を生ずることがあります。その症状は、軽度の蕁麻疹や悪心から、心肺停止に至るものまでさまざまです。その発生機序は不明な点が多く、また発生を確実に予知・予防する方法は存在し ませんが、危険因子は知られており、欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR)のガイドラインでは、1)造影剤に対する中等度もしくは重度の急性(即時性)副作用の既往、2)薬物治療が必要な気管支喘息、3)薬物治療が必要なアトピー、とされています(1)。しかし、これらが存在しても直ちに造影剤の使用が禁忌となるわけではなく、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案して投与の可否を判断する必要があります。

急性副作用発生の危険性を軽減できるかもしれない方法として、ステロイド前投薬が行われてきました(1-3)。しかしその有効性は、最新の研究論文でも明確に示されておらず(4-5)、当委員会としては、ステロイド前投薬を積極的に推奨することはもは や不適切であるとの結論に至りました。

しかし、この方法はこれまで広く実施されており、これを直ちに実施すべきではないとすることは現場に混乱をもたらし、患者さんにも無用な不安を与える可能性があります。したがって、これからも担当医の判断でステロイド前投薬を実施することを妨げるものではありません。米国放射線医会(ACR)のガイドラインでは、エビデンスが不足しているとしながらも、多くの専門家がその有効性を信じているとの理由から、ステロイド(および抗ヒスタミン薬)の前投薬を考慮してもよいとしています(2)。

ステロイド前投薬を実施する場合には、緊急時を除き造影剤投与直前ではなく、充分前に行う必要があります。ステロイドの抗アレルギー作用を充分に発揮させるためには、理想的には造影検査実施の6 時間以上前に投与することが望ましく、特に造 影検査の直前にステロイドを静注する手法は好ましくないとされています。参考としてACR のガイドラインに基づくプロトコールを示します(処方例は、ガイドラインを一部変更したものです)(2)。

ステロイド前投薬を行っても、造影剤による急性副作用を完全に防ぐことはできず、またステロイドによる副作用のリスクにも配慮する必要があります(2)。したがって、ステロイド前投薬を行って造影検査を実施する場合には、事前に十分なインフォ ームドコンセントを得た上で、副作用発現時への対応を整えて実施することが望まれます。

*繰り返しになりますが、以下の処方例はACR のガイドラインに基づくものであり、日本医学放射線学会が積極的に推奨するものではありません。

 

<米国放射線医会(ACR)のガイドラインに基づくプロトコール>(2)

下記のいずれかを実施する。

  1. プレドニゾロン50mg(プレドニゾロン錠など各社製品あり)を造影剤投与の13時間前、7時間前、および1時間前に経口投与する。
  2. メチルプレドニゾロン32mg(メドロール錠)を造影剤投与の12 時間前と2 時間前に経口投与する。

    上記1,2に、抗ヒスタミン剤を追加してもよい(ジフェンヒドラミン50mg [レスタミンコーワ®] を1 時間前に筋注、皮下注または経口投与)。
  3. 経口投与ができない場合には、デキサメタゾン7.5mg(デカドロン®など)、もしくはベタメタゾン6.5mg(リンデロン注®など)などのリン酸エステル型ステロイドを静注してもよい。その場合は、急速静注は禁忌であり、1-2 時間以上かけて点滴投与が望ましい(6)。

注意:ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなどのコハク酸エステル型ステロイドを静注で用いると、喘息発作を誘発することがある(特にアスピリン喘息の患者)ので勧められません。経口ステロイドにはこのような危険性は少ないとされています(7)。

<参考> 造影剤の種類変更による副作用軽減効果について

ヨード造影剤による急性副作用の既往がある患者さんについて、ステロイド前投薬の有効性が不明確である一方で、造影剤の変更が副作用の発生頻度を下げるとの研究があります(4-5)。この手法を積極的に推奨するにはデータが不足していますが、メタアナリシスではこの手法が支持されています(8)。ガドリニウム造影剤については相反する結果が報告されており、造影剤変更の有効性は現時点では不明確です。

以上

参考文献

  1. European Society of Urogenital Radiology. ESUR Guidelines on Contrast Agents ver. 10.0. https://www.esur.org/wp-content/uploads/2022/03/ESUR-Guidelines-10_0-Final-Version.pdf
  2. ACR Committee on Drugs and Contrast Media. ACR Manual on Contrast Media ver. 2021. https://www.acr.org/-/media/ACR/files/clinical-resources/contrast_media.pdf
  3. Tsushima Y, Ishiguchi T, Murakami T, Hayashi H, Hayakawa K, Fukuda K, Korogi Y, Sugimoto H, Takehara Y, Narumi Y, Arai Y, Kuwatsuru R, Yoshimitsu K, Awai K, Kanematsu M, Takagi R. Safe use of iodinated and gadolinium-based contrast media in current practice in Japan: a questionnaire survey. Jpn J Radiol 2016; 34:130-139.
  4. Abe S, Fukuda H, Tobe K, Ibukuro K. Protective effect against repeat adverse reactions to iodinated contrast medium: Premedication vs. changing the contrast medium. Eur Radiol 2016; 26:2148-2154.
  5. McDonald JS, Larson NB, Kolbe AB, Hunt CH, Schmitz JJ, Maddox DE, Hartman RP, Kallmes DF, McDonald RJ. Prevention of allergic-like reactions at repeat CT: Steroid pretreatment versus contrast material substitution. Radiology 2021; 301:133-140.
  6. 喘息予防・管理ガイドライン2018 年. 監修:一般社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会
  7. 厚生労働省重篤副作用疾患別対応マニュアル:非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作. http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1b05.pdf
  8. Umakoshi H, Nihashi T, Takada A, Hirasawa N, Ishihara S, Takehara Y, Naganawa S, Davenport MS, Terasawa T. Iodinated contrast media substitution to prevent recurrent hypersensitivity reactions: A systematic review and metaanalysis. Radiology 2022; 305:341-349.